コーヒーの実は外側から内側に向かって、
①外皮と果肉(パルプ)
②ミューシレージ(粘液質のペクチン層)
③パーチメント
④シルバースキン
⑤種子(生豆)
という層でできています。
プロセス(精製方法)は、これらの部分をどの程度残してコーヒー豆が乾燥処理されたかによっていくつかの種類に分けられます。

(コーヒーチェリー:左上は外皮つきのまま、右上は外皮と果肉、左下は外皮・果肉・ミューシレージの中にあるのがパーチメントで、その中にコーヒーの生豆がシルバースキンに覆われて入っています。)
コーヒーチェリーの中の様子

ナチュラル:
収穫したコーヒーチェリーをまるごとそのままの状態で乾燥し、脱穀します。
広い場所に果実を広げて定期的にかき混ぜながら天日干しにする、古来から普及してきた伝統的な精製方法です。
乾燥期間に水分を多く含むためカビや腐敗などのリスクが増えますが、その間に生豆が果肉やミューシレージから多くの甘味成分を吸収するため、よりフルーティで華やかな、甘味の強い味わいが生まれます。
乾燥した気候や水が貴重な背景、伝統的な製法という点から、エチオピアなどで有名です。

ウォッシュド:
まずコーヒーチェリーの外皮・果肉(パルプ)を機械(パルパー)で除去し、ミューシレージのついた種子を水とともにタンクに入れ、ミューシレージを発酵分解します。
豆を引き上げて洗浄し、ミューシレージを除去したパーチメントの中から生豆を取り出して乾燥処理をします。
生豆が早い段階で洗浄されるのでカビや腐敗のリスクは減りますが、水温や気温を適切に調整しなければ過発酵などのリスクが出ます。
また大量の水を使用するため環境に配慮したうえで選択できるプロセスともいえます。
雑味やブレの少ないクリアな味わいになります。

セミウォッシュド(パルプドナチュラル):
コーヒーチェリーの外皮・果肉(パルプ)からミューシレージの大半を機械(パルパー)で除去してパーチメントがついた状態で乾燥し、その後に脱穀します。
高性能なパルパーの登場により、水槽での発酵やその後の洗浄をしないため大量の水を必要とせず、それでいて早い段階で果肉と大部分のミューシレージを除去して乾燥することでカビや腐敗のリスクを抑えることが可能になりました。
豊富な水の確保が難しい地域でも品質低下のリスクを下げて処理することができるプロセスです。

ハニープロセス:
ナチュラルとウォッシュドの大きな二つのプロセスの間にあるのがハニープロセスです。
完熟したコーヒーの果実を収穫して果肉部分を除去した後、コーヒー豆の周囲にある粘液質の部分であるミューシレージを残したまま乾燥させます。
ミューシレージには甘味が多く含まれ、ゆっくりと時間をかけて乾燥する間に甘味はコーヒー豆の中へ移ります。
手間暇がかかって発酵などのリスクも増えるハニープロセスで、適切に細心の注意を払って精製されたコーヒー豆は、独特の甘味と風味を得ます。
ハニープロセスの「ハニー」は、特別に「はちみつの味がする」という意味ではなく、現地中央アメリカの人々がこのミューシレージを「miel」(スペイン語で「はちみつ」)と呼ぶことから名づけられたもので、乾燥中のコーヒー豆が、甘い香りがするはちみつ色のべたべたするものだからといわれています。
ミューシレージの除去率と乾燥期間によって、精製後のコーヒー豆はホワイトからブラックまで、場所によって差異はありますがいくつかの段階に分けられます。
ホワイトハニー(ミューシレージ約90%除去、一週間ほど乾燥)
ゴールデンハニー(ミューシレージ約75~80%除去、一週間ほど乾燥)
イエローハニー(ミューシレージ約50%除去、一週間強ほど乾燥)
レッドハニー(ミューシレージ約20~25%除去、二週間ほど乾燥)
ブラックハニー(ミューシレージ0%~ごくわずかに除去、一か月ほど乾燥)
ブラックハニーに近づくほど、より多く残したミューシレージの中でより長い時間をかけて乾燥させるため、より芳醇で濃厚なフルーツ感と独特の甘い風味が強くなる傾向にあり、逆にホワイトハニーに近づくほど、ハニープロセスの中ではよりすっきりと軽やかでありつつも、ウォッシュドコーヒーとは異なる甘味とコクをあわせもつ傾向にあるといわれます。

その他、地域によっては土地固有のプロセスがあります。

モンスーン(モンスーンド、モンスーニング):
インドのマラバール地方で有名なプロセスで、モンスーン・マラバール(モンスーンド・マラバール)が作られます。
ナチュラルプロセスのアラビカ生豆をモンスーンの時期に3-4か月に渡って湿度の高い空気のなか丁寧にかき混ぜ続けることで、生豆が均一に水分を含んで大きく膨張するプロセスです。
その昔、18世紀から19世紀頃に長い航海を経てインドからヨーロッパへ運ばれていたコーヒーの生豆が、その間に湿気によって変色し独特の風味を得たことがきっかけで、インドの黄金のコーヒーとしてヨーロッパで人気となりました。
当時のような長い航海が不要となった現代でも、長い航海の代わりにモンスーニングと呼ばれるプロセスを経ることで、広く愛され続けたモンスーンド・マラバール特有の他にはない風味が守られています。
インドには、6月から9月にかけてモンスーン(決まった時期に決まった方角へ吹く季節風)の時期が訪れます。
ナチュラルプロセスの処理をしたアラビカ生豆を、定期的に丁寧にかき混ぜながらモンスーンの時期の湿気を含む空気に均一に晒し、水分を含ませることで、生豆は大きく膨張して緑色から黄金色に変色します。
このプロセスを経たコーヒー豆のpHの値は中性に近づき、酸味が和らいでモンスーン・マラバール特有のまろやかな味わいとコクのある口当たりになります。

スマトラ
インドネシアのスマトラ島で有名なプロセスで、マンデリン・コーヒーが作られます。
高温多湿で収穫期にはスコールも来るスマトラ島で編み出された独自のプロセスで、一度に長期の乾燥期間を設けるのではなく、乾燥期間を二度に分けることでコーヒー豆の乾燥期間を短縮しています。
スマトラ式では、まず外皮・果肉を取り除き、ミューシレージがついたままのパーチメントコーヒーを生乾きの状態まで乾燥させます。
含まれる水分が40~50%くらいになると脱穀し、ミューシレージとパーチメントを取り除いて生豆の状態にし、さらに乾燥させます。
水分を多く含む状態が長く、また生乾きの状態で脱穀されるため、細菌によるダメージや豆が潰れるなどのリスクが増えますが、スマトラ式で精製されたマンデリンコーヒーは他のコーヒー豆と一見してわかるほど濃い緑色になり、マンデリンコーヒーにしかない重みのある味わいが生まれます。